リビングルーム(過去ログ)

 

ネチズン・カレッジ日誌にようこそ

ある政治学者のホームページ奮戦記――わが家のできるまで、できてから(2025年1月ー12月)

 ここには、<What’s New>で定期的にトップに現れた、本ホームページの作成過程、試行版への反響、更新の苦労話、メールへのご返事、ちょっといい話、外国旅行記・滞在記、研究室からカレッジへの改装の記録が、日誌風につづられます。趣味的なリンクガイドも兼ねます。ま、くつろぎのエッセイ集であり、対話のページであり、独白録です。日付けは下の方が古いので、逆読みしてください。

古い記録は、「図書館特別室3 ネチズン・カレッジ生成記録」として、以下のようになっています。お好きなところへどうぞ。

2025.8.15   本サイトは、7月末で「ネチズンカレッジ」旧サイトが閉鎖になり、夏休みの8月中に移転し、世界の大学のスタンダードに合わせて、9月新学期に開講の予定です。それまでは、7月更新ブログの修正版のみ公開しておきます。ご不便をおかけしますが、パソコンもサーバーもソフトも夏休み中に全面的に変更しますので、ご了承ください。

2025.8.1    2025年8月は夏休みで、本サイトは工事中でしたので、フェイスブックの個人サイトに旧サイト閉鎖・データ移転、新ドメインで新規開講のお知らせを出しました。変則的ですが、過去ログとしておきます。

暑中お見舞い申し上げます。

1,  8月1日から「ネチズンカレッジ」の旧来の寄宿先のサーバーが閉鎖され、開かなくなっていて、ブックマーク困った人いるかもしれません。

http://netizen.html.xdomain.jp/home.html

なんとか別のサーバーに仮移転し、グーグルでも拾ってくれます。

8月15日には独自ドメインで、趣を変えて、やや文化的なブログと資料庫にして、新装開学の予定です。こちらをブックマークしておいてください。

なお、文化的というのは、予告サイトに「竹久夢二の2枚の<ベルリンの公園>の謎」を入れて、メキシコのトロツキー暗殺に関わったという画家たちや演出家・佐野碩とも関わりますが、

https://xs655517.xsrv.jp/ousukeyumeji.html

https://xs655517.xsrv.jp/yumeji.html

https://xs655517.xsrv.jp/99Mexico.html

/https://xs655517.xsrv.jp/kuwanosano.pdf

私の方は、この暑さで、エアコンの部屋に引きこもり、心臓病のリハビリに勤めながら、新HPなどIT環境を整備し、美術より、音楽を聴く日々です。

 難聴気味で、近く補聴器が必要になりそうなので、トランプver.2と日本政治のテレビは半分にし、画面をyou tube 用に切り替えて、昔東ドイツ留学時代「ベルリンの壁」の内側でこっそり聞いて感動した西側ラジオで流行っていた、というのはタテマエで、実は大学はフランス語クラスでドイツ語未習得のまま留学した耳にはわかりやすかった、フランスのシャンソンか歌手ミレーヌ・マチューがドイツ語で唱った「私の世界はミュージック」から、

https://www.youtube.com/watch?v=E9UP2frZZ1E…

中島みゆき「世情」の各国版バージョン、特にロシア人バージョンや香港雨傘もの。ただし最近の反財務相デモ版はいただけず。

https://www.youtube.com/watch?v=jxYNSOrXAv4…

それに、ウクライナ出身のナターシャ・グジさんの「翼をください」や、カザフスタンからの加藤院ゼミ最期の留学生アケルケさんが日本に紹介したカザフのヒバクシャの歌「ザマナイ」など。

もちろん7月の「ネチズンカレッジ」で扱ったショパンコンクールのブーニン夫妻の演奏や、関連する私と「可児和夫」の出身高・盛岡一高の恥ずかしい「蛮カラ校歌」なども聞きながら。

https://netizen.jp/archives/44

https://www.youtube.com/watch?v=YwUnUBYa2mI…

https://blog.goo.ne.jp/…/0a5d92e0e5bdb75a9124a6ab11dbdc1b

 「可児和夫」探索の成果は秋以降になりますが、戦後80年の今年は、8月16日(土)23時のNHK「ETV特集「昭和天皇 終戦への道 ~外相手帳が語る国際情報戦」に協力しました。

軍部ばかりでなく、昭和天皇も和平派の東郷外相も「ソ連を介した名誉ある和平」に拘り惑わされて、沖縄戦・大空襲・原爆・ソ連参戦と不要な犠牲を重ねた話です。

【盛岡一高応援団】2024年9月

「戦後80年」を「戦後50年」に立ち返って、戦争体験を検証し継承する

2025.7.2  ● 更新用パソコンのDreamweaverがいきなりショートし、ほとんど完成していた7月1日付け本文が失われました。いくつかの深刻なハグも見つかり、ソフトの再インストゥール。1日遅れの更新です。異常気象によるものでしょうか。日本ばかりでなく、世界全体で酷暑の夏が到来しているのを見ると、この「異常」こそ正常で、これまでの「正常」の座標軸が変わったのではないか、と思わざるをえません。政治の世界でも、そうです。19世紀から20世紀・21世紀と積み上げてきた国際協調の世界秩序が、一人の政治家の狂気のきまぐれによって、破壊されようとしています。「正常と異常」と同じように、「正気と狂気」の分界線が、壊れたかのようです。「戦後80年」の日本の行方は、世界史の大波に翻弄されています。

● そのもとで、「戦後80年」を考えるには、一度30年前の1995年「戦後50年」に立ち戻って、そこで何が語られ、何が見逃され、何が受け継がれたかを確認すべきではないか、というのが、私が7月1日付け原案で書いていたことです。理由は、二つありました。一つは、「戦後50年」には、1945年敗戦時に20歳だった人が70歳になり、原爆・空襲・疎開などの被害体験ばかりでなく、朝鮮・台湾の植民地支配、大陸での三光作戦・細菌戦・毒ガス戦、名誉の戦死どころか食糧補給もなかった空腹・飢餓と感染症の蔓延など、加害体験を含む悲惨な戦争体験を多くの人々が語るようになり、新聞・雑誌・テレビでも、多くのドキュメンタリー、手記・証言が発表されました。その数は膨大です。朝鮮半島や中国・台湾・東南アジアからの、日本の加害の記録も多く、蓄積されてきました。

● しかも第二に、その5年前の竹下内閣期の全国全市町村に各1億円をばらまく「ふるさと創生事業」の一部として、金塊1億円や箱物作りとは異なる無難で堅実な使途として、自治体史編纂が進められていました。その村の歴史、町の歴史に、多くの普通の人々が、ひもじく厳しかった戦争体験と対照的な、戦後の高度経済成長と「豊かさ」を上塗りし、郷土史の近現代編や自治体広報などでも、無数の記憶・証言が文字や音声・映像になり、記録に残されました。体験を語る生存者が高齢化し数少なくなった「戦後80年」には、その貴重な生き残りの記憶の記録化も重要ですが、1995年が阪神淡路大震災・オウム真理教事件の年であったとともに、「インターネット元年」「ボランティア元年」であったことを思い起こし、30年前の貴重な証言・記録を再検証するとともに、生成AIをも使って膨大なデータの保存・数量化・分類、公共的デジタル・アーカイフ構築が可能となるのではないか、という問題提起です。

● その実例として、私自身が取り組んでいるのは、ちょうど30年前の1995年6月1日のテレビ朝日ニュースステーションで放映された、「ある戦後50年 医師・可児和夫」という番組の主人公「可児和夫」の探索です。可児和夫は、1904年岩手県生まれ、旧姓盛岡中学(現盛岡一高)から東京帝大法学部卒、さらに九州医専(現久留米大学医学部)で医学を学び、妻子を日本に残して1936年ドイツに留学、在ベルリン日本人会主事から、第二次世界大戦中は中外商業新報(現日経新聞)、朝日新聞のジャーナリスト、1945年5月ドイツ敗戦時は読売新聞特派員でした。在欧日本人のほとんどは、シベリア鉄道・満州国経由日本へ帰国しましたが、可児和夫は、音楽家近衛秀麿らとともに、ドイツに残りました。そこでソ連軍に捕まり、1945年7月から50年2月まで、ベルリン近郊のもともとナチスの強制収容所をソ連軍が占領して受け継いだザクセンハウゼン捕虜収容所で、まともな尋問もなしで長い収容所生活を送りました。東西ドイツ分裂国家成立で、50年にようやく解放され、日本の家族と連絡もとられましたが、そのまま毎日新聞初代ベルリン特派員として、東のベルリンから西のボンに移って残留、西独では、日本大使館のドイツ語の仕事やドイツのラジオ・テレビ放送に日本通の評論家として出演、ついに日本には一度も帰らず、ケルンでベルリンの壁崩壊、ドイツ統一を見て、1996年に死去しました。貴重な戦争・捕虜体験と数奇な人生を歩んだ日本人です。

● 可児和夫の戦後ソ連軍ザクセンハウゼン収容所体験は、『文藝春秋』1951年2月号に、可児自身の手記「一日本人の体験した25時ーー東独のソ連収容所の地獄の記録」として発表されています。そこで医師として多くの捕虜を励まし生きる希望を与えたことが、ドイツ語でも報道されました。幼時に日本で分かれた息子の可児秀夫は、江戸川乱歩賞作家「梶龍雄」になり、多くの推理小説をドイツの瞼の父に贈りながら、1990年には亡くなりました。ちょうど東欧革命・冷戦崩壊からドイツ統一の時期で、かつてザクセンハウゼン収容所で可児和夫に救われた人々が、可児の所在と存命を見出し、ドイツのメディアで大きく取り上げられて、1995年、久米宏・小宮悦子のテレビ朝日ニュースステーション「戦後50年」特集で、同じ体験をした旧友たちとの再会と、車椅子でのザクセンハウゼン収容所跡再訪が実現しました。同年12月8日、日米戦争開戦の日の日経新聞文化欄には、可児和夫を「ドイツの父」として慕ってきた在独日本人ジャーナリスト中島英子さんの「絶望収容所に温顔の医師」という記事も、掲載されました。その中島さんが、96年の可児和夫の死後、多くの資料と日記を遺贈され、その生涯全体を調べて、「戦後80年」に記録に残そうとしています。

● たまたま私が日独関係史を研究・執筆し、しかも可児和夫と同じ盛岡一高出身ということで、本「ネチズンカレッジ」経由で、著名なピアニスト、スタニスラフ・ブーニン日本人夫人となった中島栄子さんから、岩手時代の調査依頼がありました。それを、岩手在住の元毎日新聞記者であった私の友人に協力してもらい、宮沢賢治の弟清六と旧制中学で同級であった可児和夫の、誕生から青年時代がようやく明らかになりました。その中間報告は、この友人の力を得て、『岩手日報』2022年2月20日付けの大きな記事になりました。中島ブーニン栄子さんの可児和夫評伝も、ようやく書物になりつつあった「戦後80年」の6月、ここ数年癌と闘病してきた友人は、力尽きて、天に召されました。本カレッジの熱心な読者で批評家でもあった友人の死は、私にとって大きなショックで、喪失です。3年ぶりで東北新幹線に乗り、友人のキリスト教花巻教会での葬儀にでてきましたが、同じく闘病中・リハビリ中の私にとっても、心身の負担の大きい、いのちの重みを考える、「戦後80年」の夏になりました。本カレッジの今後についても、改めて、考えていくつもりです。ブログ

アメリカのソフトパワー喪失から、世界の知の布置状況はどう変わるのか?

 

2025.6.1  ● 日本でもよく知られた、「ソフト・パワー」論の創始者、ジェセフ・ナイ教授が亡くなりました。20世紀「パクス・アメリカーナ」を可能にしたのは、軍事力と経済力というハードパワーばかりでなく、自由と民主主義、法の支配と人権、人種差別撤廃や人道援助など、文化や価値観の影響力と国際的信頼を得るソフトパワーによるものだ、というのがナイ教授の国際政治学でした。ハーバード大学行政大学院ケネディ・スクールの学長を長く務め、日米関係では「ナイ=アーミテージ・レポート」で知られました。ケネディ・スクールには、世界中から多くの政治家や外交官志望の若者たちが集い、クリントン政権時には国防次官補をつとめ、ナイの存在そのものが、彼の理論とともに、ヘゲモニーを可能にするソフトパワーでした。21世紀の開始にあたって、私が19世紀機動戦・20世紀陣地戦に続く21世紀情報戦論を唱えたのも、アントニオ・グラムシのヘゲモニー論とナイ教授のソフトパワー論を、接合したものでした。

● トランプ2.0内閣の登場と、ナイ教授の喪失に合わせたかのように、アメリカにおける「知の大脱走=エクソダス」が始まりました。ソ連・東欧現存社会主義に対抗し崩壊させた、20世紀アメリカの「多様性 (Diversity)、公平性 (Equity)、包括性 (Inclusion)」のソフトパワー は、いったいどこに向かうのでしょうか? トランプによるDEI攻撃の象徴として、ハーバード大学政府予算と助成金・契約をばっさり削られたほか、アメリカ全土で留学生や研究者のビザがストップされそうです。大学に留学生名簿の提出を求め、そのSNSでの発言をチェックし、イスラエル・パレスチナ戦争での「反ユダヤ主義」及びトランプ政権への態度を調べると公言しています。中国からの留学生については、中国共産党との関係や専攻領域・研究テーマもチェックするといいます。ちょうどアメリカの大学の卒業期で、9月からの新学期に向けて、新規の留学希望者の手続きがストップしてSNSの検閲が語られ75%ともいうアメリカからの脱走を希望する外国人研究者・留学生を、カナダやヨーロッパ、オーストラリア・ニュージーランドや香港・シンガポール・日本などの大学・研究機関が、受入の意向を表明しています。研究資金の潤沢なもう一つの大国・中国もありますが、言論・思想の自由は大いに疑問です。世界の知的星座の布置状況(コンステレーション)は、様変わりするのでしょうか。

● 日本の文部科学省は、ハーバードなど米国の大学研究者・学生の受入に積極的です。ただし、日本の留学・研究環境がアメリカに匹敵する、それ以上であると、当の研究者・学生から評価されなければ、日本人の帰国者以外は、多くはないでしょう。日本語の障壁もあり、少人数でも受け入れできれば好ましいことですが、果たして日本の閉鎖的で単色の大学・研究機関は、DEIの中で育ち輝いてきた世界最先端の研究者・学生に、満足してもらえるでしょうか。アニメ・漫画と円安便乗ツーリズム以外の、日本のソフトパワーの力が問われます。折から日本学術会議を法人化する法案が通ると、学術知への政府の監視と規制が強まります。それでなくとも、国立大学法人化以降どんどん予算が削減され、ポスドクの就職先が狭く厳しくなった国です。世界の研究者・学生に魅力ある、自由で多様性に満ちた、学園を作るには、まずは大学の自治と学問の自由、研究予算と人材育成が不可欠です。

● トランプの強権的横暴は、大学だけではありません。就任時の停戦公約からどんどん離れる、ウクライナと中東の戦争の放置、世界貿易を揺るがす保護貿易・関税の終わりのない混乱を作り出しています。米国議会は、上下院とも共和党が多数のトランプ与党ですが、それでも国内経済の悪化や官公庁の乱暴な縮小・定員削減には、共和党員でも賛同しない議員が出てきます。なによりも、大統領・議会とならぶ各級裁判所が、トランプの思惑通りの政策遂行に、ブレーキをかけています。ただし、連邦最高裁は、第一期トランプ政権時に保守派を多数にしてきましたから、アメリカ政治の魂というべき立法・行政・司法の権力分立も、トランプ独裁への防壁になり得るかどうか、予断を許しません。日米交渉の主導権もトランプで、どうやら、対中強硬政策・国家安全保障の名目での軍事費増大と結びつきそうです。

● 世論調査では、石破内閣支持率は20パーセントの危険水域に。そこに、米価の政治ゲームで小泉進次郎農相が参入し、与野党の境界を、かき回しています。主食の前年比二倍の物価高で、国民生活の根幹が揺らいでいます。コメを買えない88%の一人親家庭老人孤独死も増えています。与党の政治資金改革棚上げや、立憲民主党との大連立風年金改革、野党の参院選向けパフォーマンスで足並みが乱れ決められない選択的夫婦別姓、トランプ関税の行方や国防費増要求でがらりと環境条件の変わる世界史的激動のまっただ中で、片隅の国の貧しい政治は、まもなく東京都議選・参院選です。トランプは、プーチン習近平に似た政敵粛清を進めようとしています。しかしアメリカ国民の中には、まだナイのソフトパワーを信じるに足る抵抗があります。それに比すれば、日本は、残念ながら無力・無抵抗です。

思想・言論の自由と知のエクソダス

2025.5.1  ● 5月1日はメーデー、労働者の祭典です。アメリカ大統領トランプの強固な支持層は、グローバル化による資本の低賃金国・地帯への流出で職と技能を失ったラストベルト(赤錆)工業地帯の白人労働者層だとか。富裕層の党になった民主党に対して、旧ソ連の「プロレタリア独裁」に学んだのでしょうか、共和党を「労働者階級の前衛党」風に塗り替え、大統領令140本以上を次々に連発して、前民主党政権と正反対の急進的改革、三権分立を否定し権力を独占する施策を、100日間執行してきました。ただし、旧ソ連を引き継いだロシアのプーチンと同様に、テスラのイーロン・マスクやGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)のビッグテック・トップら親しい仲間で利益を独占する「オルガルヒ支配」ともいわれ、中身は支離滅裂・混沌です。合理的未来予測はできません。

● トランプ旋風は、世界中で吹き荒れてハリケーンとなり、20世紀の世界秩序を根底から破壊しようとしています。就任100日で世界の政治経済秩序を転覆し、国内では政府の「公共性」をくつがえし、アメリカのウリだった「多様性・公平性・包摂生(DEI)」と「自由」さえ反故にして、スミソニアン博物館の展示を大統領直々に「反アメリカ」と問題にする事例に顕著に示された「反DEI(多様性、公平性、包摂性)」政策の全面展開です。案の定、歴代大統領中最低の支持率へと、急降下です。それでも強固な支持者が、ワシントンポスト調査で39%ニューヨークタイムズ調査で42%もいるのが、おそるべき現実で、アメリカ社会の分断の深刻さを物語ります。これでは富裕層の党になった民主党では対抗できないとして、「社会主義」を公然と語るバニー・サンダース上院議員の「トランプ=マスク独裁を許さない」運動が、第三極で台頭しつつあるのも、むべなるかなです。左は The Wall Street Journalの、5月1日付メーデー写真。曰く、「トランプ氏とサンダース氏と米国民の反乱」

●  トランプは当初、ウクライナ戦争を就任24時間で停戦させると豪語していました。それは、トランプがほとんどロシアのプーチンの代理人になった「ディール=取引」で、ウクライナのゼレンスキーばかりでなく、ヨーロッパ諸国や国際法を重んじる人々を失望させたまま、公約の90日がすぎました。トランプの気まぐれで、ウクライナの鉱物資源をこれまでの戦費の代償として取引しただけで、仲介から手をひくポーズさえみせています。やはり国連の役割の再建、中国やインドの介入も必要となるでしょう。さらに、イスラエルのガザ民衆虐殺について、トランプはネタニヤフ首相の後見人の姿勢を崩さず、ジェノサイドを憂う世界の人々に敵対し、緊急の人道支援さえ妨害して、USAID解体で世界の飢餓・貧困・難民問題から手を引いたままです。

●  世界を揺るがす自由貿易への挑戦、トランプ風「関税による取引」は、隣国カナダやメキシコ、欧州の同盟国ばかりでなく、中南米・アジア・アフリカの経済にも、ワクチンの効かないトランプ風邪をひかせています。株価も、為替も、ドル基軸の根幹のアメリカ国債も落ち込む「トリプル安」で、あわてて相対的に市場経済のわかるベッセント財務長官らが微調整に入りましたが、就任前にスティグリッツらノーベル経済学賞受賞者16人が示していた懸念が、その通りになりました。連邦中央銀行(FRB)の独立性さえ脅かし中国元にはまだ基軸通貨の力はありませんから、半生記ぶりの金本位制への復帰さえ、ささやかれています。相変わらず、為替の「マール・ア・ラーゴ合意」をめざすスティーブン・ミラン論文ピーター・ナバロ上級顧問若手のオレン・キャスらのいかがわしいイエスマンたちが、トランプの「黒幕」「ブレーン」と見なされていますが、なにしろ国際統計もマクロ経済学も無視した個人独裁による朝令暮改の毎日で、アメリカ経済も世界経済も、ぐちゃぐちゃです。

●  アメリカ国内で、トランプが唯一過半の支持を得ているのは、移民排除政策だといいます。主として中南米からのヒスパニック不法移民を強制的に本国に送り返すという、「移民大国」「多様性の国」からのエクソダス・離脱です。それにあわせて、イデオロギー的にも、強固な支持層である福音派プロテスタントの教えに従い、妊娠中絶や同性婚、LGBTQに反対し、「生物学的男性と女性」だけの国にしようとしています。かつて「人種のるつぼ」とか「サラダボール」と呼ばれたアメリカを、るつぼの中を白くすりつぶした国として再生しようとしています。何よりも、イギリスからの独立以来国是であった信仰・思想・良心の自由、言論・表現の自由を、単色の「トランピズム」で塗り替えようとしています。スミソニアン博物館の展示差し替えばかりでなく、イスラエルのパレスチナ人虐殺に対する学生たちの抗議活動を口実に、ハーバード大学・コロンビア大学などに政府からの補助金停止の圧力を加え、ハーバード大学などリベラル派が強く世界の優秀な留学生が集まる大学が「大学の自治」の伝統に基づき拒否すると、外国人の就学ビザ・就労ビザを取り消して、「DEI」を排除しようとしています。

●  すでにアメリカで研究する科学技術関係者の75パーセントが、研究の自由を求めて、「51番目の州」を拒否したカナダやヨーロッパなど、他国への移住を考えているといいます。「子どもを民主主義の国で育てたい」という、「知のエクソダス」の始まりです。将来のアメリカは、世界の知の最先端からフェード・アウトする兆候です。それは、対岸の火事ではありません。農産物輸入増を手がかりに自動車関税を低減させ、なんとかトランプに褒められる「同盟国」にとどまろうとすり寄る日本は、いまや世界の鼻つまみ・笑いものにされ、実利も得られぬ期待外れの「ディール」になる可能性大です。そして、学の独立性を奪う学術会議法案、日本人学生と留学生との授業料・奨学金差別などで、科学技術・学術文化の「日本化」が諮られつつあります。80年前に「科学技術立国」で高度経済成長を遂げてきた国が、「失われた30年」でその地位を失い、最優秀の頭脳ははじめから海外に出向き、内向きの知に特化した国になろうとしています。知の頽廃の一例は、主食である米の価格が二倍に上がって、当初は供給は十分で流通の目詰まりと言ってきた農水省が、備蓄米一時放出が一月たっても店頭に届いたのは1.4%のみという現実に直面し、あわててさらなる備蓄米放出と輸入米に頼る醜態。主食の食料安全保障として減反を続け、補助金で米価を維持してきた帰結が、この有様です。明らかに農業経済学農政学の非科学性の暴露です。思想・学問の自由と言論・表現の自由の衰退は、21世紀後半の日本を、暗くぬりかえるでしょう。

 

トランプが攪乱する世界、無為無策の日本、人権が危ない!

2025.4.1● 4月1日はエープリル・フールで、かつては公共放送や老舗の大新聞が、ウィットの効いた笑いをとる機会でした。しかし、21世紀にメディア環境が激変し、フェイクニュースが日常的に流れるようになって、年に一度の「罪のない嘘」の許される日の意味が失われました。三谷幸喜の表現では「毎日がエープリルフール」になったのです。かつてはイギリスの公共放送が「スパゲッティのなる木」を放映したり、フランスの高級紙「ル・モンド」が「贋ル・モンド」をつくったりといったウィットがありました。しかしドイツののフランクフルター・アルゲマイネ紙のエイプリルフールのジョークを、日本の朝日新聞が真面目に報じて撤回に追い込まれた1995年あたりから、様相が変わりました。ジョークや警句の世界も、情報戦の一環になってきました。
● 中国政府は、2016年にエイプリルフールを「社会主義の核心的価値に合わない」として警告しましたが、インターネット上では「国営放送は毎日が嘘情報」「中国では年中エープリルフール」といった書込が現れました。ロシア、アメリカ、それに日本も、最近はSNSにのって「年中エープリフール」風にフェイクニュース陰謀論が流通・跋扈し、確かに4月1日の意味は薄れました。今年なら、Fox News あたりがAI映像も使って「苦難の大阪万博に救世主! イーロン・マスクが、グリーンランドにならって大阪夢洲を買収、米国領にしてカジノ・リゾートと「空飛ぶクルマ」のモータープールに!」と報じるあたりが上品なジョークですが、大阪万博開催二週間前の悲惨な日本では、あまりに迫真過ぎて、またしても訂正記事が出そうです。
● もっとも「毎日がMAGA(Make America Great Again)」のトランプは、エープリルフールを無視しているわけではありません。大統領選挙公約の核心であった「関税による取引」の目玉である自動車の25%関税・相互関税を4月2日に発効させ、3日から課税します。はじめは4月からと言ってきましたが、冗談と思われないように、1日ではなく2日からにした、と言います。カナダやメキシコ、欧州や日本にとっては、深刻な経済的打撃で、すでに株価が暴落しているように、「トランプ不況」の入口です。ウクライナ戦争でのプーチンゼレンスキーとの取引、パレスチナでのガザ買収リゾート化提案にとどまらず、中国やBRICS諸国との関係もありますから、世界秩序の再編です。すでに地球温暖化のパリ協定からはじめて、世界保健機関(WHO)国連人権理事会から離脱し、米国際開発局(USAID)の対外援助停止で、地震のあったミャンマーや内戦の続くアフリカは、大打撃です。WTOの拠出金も停止しましたから、世界銀行IMFにも、影響は及ぶでしょう。国際連合そのものがどうなるか、1920年に国際連盟が発足して以来、二つの世界大戦とグローバル化で増殖してきた国際機関と協調的世界秩序の、深刻で重大な危機です。 ● そんな世界を尻目に、同盟国日本だけは関税衝撃を和らげてくれるのでは、と脳天気な楽観論で臨んできた石破政

権も、正念場です。それでなくても落ち目の自民党は、米国では20ドルの「こしひかり」5キロが日本で4000円以上に高騰する米騒動、低賃金・物価高の中で生活苦にあえぐ庶民を尻目に、企業献金と税金を原資とした10万円商品券土産付き宴会政治を続け、いまや、世論調査でも地方選挙でも負け続け、東京都議会選挙・参院選挙でも、再起の気配はありません。野党の分裂とふがいなさだけが頼りという弱い政権には、トランプに対等で台湾の香港化の危険を訴えたり、習近平に東アジアの安定を説いたりする、自覚も余裕もありません。、
● これは、エープリルフールではありません。官民共同の非営利シンクタンク日本経済研究センター(JCER)の長期予測が、3月27日に発表されました。曰く、「2075年 BRICS経済圏が米国の1.4倍に拡大。―日本は11位転落、1人あたりGDPは45位、―出生率・移民とAIで成長率に差」「日本のGDPはTOP10から脱落。2024年の4位から2075年には11位まで低下する。一方で、インドネシアはBIG5入りし、メキシコやブラジルなども順位を上げる。一人当たりGDPでみると、日本は45位へ低下し、相対的な所得水準は「中位グループ」へと転落する」と(写真)。だからこそ、こどもたちの保護と将来への投資が必要なのですが、こどもたちの自殺が増えて、「ベビーカーがけられる社会」の現実があります。しかも、このJCER長期予測の段階では、トランプVer.2の狂気はまだ本格的に作動しておらず、ミャンマーの200年ぶり地震以上の、日本列島の10人に一人が被災し30万人死亡という必ずおこる南海トラフ巨大地震最悪のシナリオも、織り込まれていないのです。この見通しを、冷静に受け止めた、若者の奮起が必要です。

● フジテレビ第3者委員会報告書が出されました。公表版要約版は、PDFですぐ読めます。巨大メディア企業組織内部での、驚くべき性暴力、セクシャルハラスメント・パワハラの横行、そして、それを容認し温存する経営陣と企業体質、内部告発者を犯罪視する絶望的閉鎖性、その頂点に41年間(シュタージ国家東独の存続と同じ!)居座った日枝久という独裁者ーー日本の人権感覚、ジェンダー平等の遅れを、改めて端的に示して、愕然としました。翻って、報告書も示唆するように、それは「日本のメディア・エンターテインメント業界」全体にも多かれ少なかれ見られる問題で、さらにいえば、日本社会と経営組織に宿痾のようにつきまとい、20世紀後半の一時期「先進国」といわれたこの国が、停滞し、衰退して、世界45位程度の「中位国」へとフェイドアウトする道を辿らざるをえない、予兆です。そんな人権感覚喪失の組織が、経済界・企業にも、政界・政党、官僚・公務員組織にも、医療・福祉や教育や社会運動の現場にさえ、まだまだあるのではないでしょうか。可能な限り客観的な、第三者による厳しい点検が求められます。●  心臓病からの快復の見通しが立った年末から、少しづつですが、研究生活への復帰を始めました。そのとっかかりとして、蔵書・資料整理を4年ぶりで再開し、可能なものはPDFにして残し、雑誌そのものは廃棄する作戦です。まだ内容的に整理するには至っていませんが、本サイト「研究室」のページに、数多くの論文の他、対談・座談会・エッセイ等を新規に収録することができました。特に1990−94年に、80年代『現代と思想』(青木書店)の名編集者であった故西山俊一さんが興した窓社の雑誌『季刊 窓』に、自分でも忘れていた多くの論文が、掲載されていました。「総目次」と共に、「日本はポストフォード主義か」の国際論争や、「民主集中制」をめぐる藤井一行・橋本剛・平田清明さんとの密度の濃い座談会討論など、現在でも生々しい意味のある論稿が、見つかりました。ちょうど、本サイトの入っているXdomain/serverの再編で、7月までに新たなサーバーに移転しなければならなくなりました。今回、倉沢愛子・松村高夫共著『ワクチン開発と戦争犯罪ーーインドネシア破傷風事件の真相』岩波書店、2023年)書評、2022年5月に亡くなった私の政治学の恩師・田口富久治教授の追悼集(私家版『追想・田口富久治』1923年11月)への私の寄稿文「戦後日本政治学史と田口富久治先生」を新たに追加しました。これら新規収録論文を組み込んだ、カリキュラムの再編・再構築も一緒に取り組みたいと考えています。

   

人間の「生きる権利」を踏みにじる「トランプ帝国」の横暴が招く第3次世界核戦争の危機! 

2025.3.1● トランプ2.0の嵐で、ウクライナもパレスチナも、もちろんアメリカ国内も大混乱です。残念ながら日本政府は、それに異議を差し挟むことさえできない部外者で、従順な門外漢です。ウクライナでは、ロシアのプーチンとの電話会談等で得たフェイク情報をもとに、トランプ大統領が「そこそこ売れたコメディアン」「選挙なき独裁者」と侮辱したウクライナのゼレンスキー大統領を、2月末に米国ワシントンに呼び出し、これまでの前民主党政権による支援・武器供与の見返りとして、ウクライナのレアメタルなど鉱物資源・石油・ガスなどの米国所有・共同開発・利益独占を脅迫し、認めさせようとしました。しかし、ウクライナにとっての死活の条件である、将来の恒久的安全保障、NATOへの参加、ロシアの侵略・再侵略に対する制裁・保障がなかったためか、両首脳は口論になって、「ディール=取引」は不成立。先が読めなくなりました。ただし会見記録を始めから詳しく読むと、トランプにとっては、ウクライナの安全保障は隣国ヨーロッパ・NATO諸国がなすべきことで、第3次世界大戦の危機さえも利権獲得の「ディール=取引」の対象でしかないようです。 ウクライナの人々や、戦争で家族を失ったロシアの人々の「生きる権利」、生命と生存に,トランプは無関心です。
● パレスチナのガザ地区については、イスラエルの入植計画以上の暴論です。ガザ地区を米国の所有するリゾート地として整備・開発し、超高層のトランプホテルの門前でしょうか、金ピかのトランプの立像が建つのだとか。パレスチナの人々の生活など顧みず、金の力で生まれ故郷から追い出し難民にする、暴力的妄想です。アメリカ国内では、政権発足後37日でようやく初閣議、ヒトラーなみの「選挙で選ばれた独裁者」が誰であるかは明らかなのに、閣僚でもないイーロン・マスクを、ヒーローに仕立てて、政府効率化局(DOGE)で200万公務員の多くをAIを駆使した仁義なき解雇・削減USAIDなど対外援助・人道事業の縮小・解体、移民・難民拒否、その代わり7億円出せばグリーンカード永住権付与、そして「アメリカ第一主義」の目玉である25%の関税が3月から始まります。トランプにとってEUは、「米国をだますため」に設立されたそうです。日米安保なら、「瓶の蓋」論を持ち出しかねません。「トランプ帝国」の友好国は、G7を共に担ってきた英独仏等欧州大国や日本から、プーチンのソ連、ネタ二エフのイスラエルに移り変わったかのようです。事実、国連でのウクライナ決議は、様変わりです。ロシアの非難が入った決議は欧州・日本を含む93カ国の賛成多数で採択されましたが、アメリカはロシアと共に反対の18カ国側にまわり、中国・インドなど65カ国が棄権でした。国連安保理では、より露骨で、ロシア批判のない「ロシアとウクライナの紛争の迅速な終結」を求める決議を、米ロ中主導の10カ国の賛成多数で採択しました。英仏など欧州5カ国が棄権しているのが、せめてもの救いですが、憂鬱です。トランプ=プーチンの汚れた同盟に、習近平や金正恩がからむ「独裁者たちの宮廷外交」が、これから4年も続くのでしょうか。 ● 欧州政治には、早速トランプ効果です。2月23日投票のドイツの総選挙で、ウクライナ支援に熱心だった社会民主党(SPD)首班の与党が大敗、中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)がトップに立ち、イーロン・マスクが露骨に支援した極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)が、前回2021年選挙の2倍となる推定得票数20.8%を達成し、第二党です。旧東独地区で軒並み移民排斥・自国第一のAfDが第一党になり、旧西独でかろうじてSPDや緑の党が行き残りました。内部にいくつもの潮流があって、旧東独SEDの「民主集中制」など知らずにAfDに対抗する左翼党が、SNSを駆使して旧東独でも若い人々の支持を得、39議席から64議席に躍進したのが、せめてもの救いです。しかし、本来欧州結束の基軸たるべきドイツの連立政府の構成さえこれからの不安定で、ウクライナ戦争の行方は混沌です。20世紀の二度の世界戦争とその後の冷戦の教訓の下に作られた、国連、EUといった基本的枠組みさえ、ゆるがしかねません。 ● 21世紀も4半世紀をすぎたのに、「帝国」ないし「帝国主義」という古典的概念が、浮かび上がります。ウクライナもパレスチナも「植民地分割」の対象とされ、メキシコ湾は名前まで変えられて、大国同士の取引で、地球の線引きがされているようです。しかし、ホブソン、レーニン風「帝国主義」は、自国の産業的優位をもとに他国に市場開放の自由貿易を強要するはずなのに、「トランプ帝国」は、25%もの高い関税で、国際競争力を失った国内産業を守ろうとしています。中国の「一帯一路」の方が、むしろ「自由貿易帝国主義」風です。ネグリ=ハートの「帝国」なら、金融と情報の地球的ネットワークが国民国家を超えてグローバルに支配するはずですが、トランプ=イーロン・マスクの「ビッグテック」支配は、「自国第一主義」で矛盾をはらみます。「領土奪還」と称するプーチンの古典的「帝国」も、20世紀に確立した国際法を無視した暴挙です。要するに、ホブソン、レーニンの古典やウォーラースタイン、ネグリらの現代的展開でも説明不可能な、「新帝国主義」です。いや日本の雑誌『思想』の昨年7月号は「帝国論再考」を特集し、古代から近世をも含めた世界史の再検討を提起していましたから、「新帝国」ともいえます。何よりも、分割されるウクライナやパレスチナの民衆の側に立った世界構造の解析と変革構想、「反帝国主義」の現代的論理と主体が求められます。20世紀の「パクス・アメリカーナ」に比して、アメリカの衰退は、明らかです。かつて「社会帝国主義」と呼ばれたロシア、中国に、インドやブラジルをも組み込んだ新たな世界再編の行方、国際レジーム論のS・クラズナーの用語で言えば、秩序形成国(maker)、秩序攪乱国(shaker)、秩序受容国(taker)の現代的組替えが、問題とされなければなりません。 ● かつてmakerの一角に入りかけた日本は、アメリカに従属するtakerにも見え、辛うじて潜在的shaker の立場にたって、自主的発言ができるかどうかが、問われています。せっかく被団協がノーベル平和賞を受賞したのに、核兵器禁止条約への日本政府の態度を見ていると、オブザーバー参加さえ難しく、世界ののけ者になりそうです。むしろ、北朝鮮に対抗して韓国で強まっている自前の核開発・核武装論が、日本でも、再び現れかねません。原発で習熟した潜在的核技術を元に、核保有国に向かうのではないかと、危惧されます。「再び」というのは、50年前にもあったからです。2010年のNHK「核を求めた日本」放映をきっかけに、民主党内閣のもとで外務省から資料公開されたように、佐藤内閣期には、沖縄返還・ノーベル平和賞の裏側で、秘かに核開発・保有計画が進行し、当時の西ドイツ政府と協議するところまで進んでいたのです。清水幾太郎の『日本よ国家たれーー核の選択』(文藝春秋。1980年)より、10年も前でした。世界は、国連を無視したトランプとプーチンの「取引」によって、中国・北朝鮮・イスラエル・イランの核問題まで新たに抱え込んだかたちです。

● トランプ登場によって、日本のロシア・ウクライナ研究者の中でも、新たな議論が始まったようです。塩川伸明さんが2月12日のフェイスブック上で紹介する、2月8日のウクライナ開戦3周年のオンライン討論会では、和田春樹・伊東孝之・松里公孝の三氏が、それぞれにロシア・ウクライナ戦争の行方を述べたとのことです。長老和田教授は、一貫した「即時停戦・和平」論者でしたから、トランプ就任を好機として歓迎したようです。戦争をロシアの侵略とみてきた伊東教授は、もともとウクライナ国民が抵抗する限り外部から停戦を言うべきではないという立場でしたが、ウクライナの世論の歴史的変化により、領土を譲っても平和を望む世論が強まってきたとして、やはりトランプによる停戦交渉はやむなしとしたようです。一番若い松里教授は、アメリカの狙いに着目して、ウクライナのNATO加盟についての民主党バイデンから共和党トランプへの態度変化が重要で、「露ウ戦争開戦時のウクライナでは戦意はきわめて高く、ロシアでは厭戦気分が強かったが、3 年間でそれが逆転してしまった」実情を踏まえて、「まずは停戦、それから和平交渉」という外交の王道につくべきだということのようです。塩川教授も議論の紹介だけで、自分の評価は差し控えているようですが、まずはウクライナ戦線膠着とトランプ登場という、新たな条件下での平和を考えるべきという点では、私も学ばされました。NATO/EU/G7/日米安保・国連等々、20世紀に作られた国際協調・世界平和維持の仕組みを含め、国際政治は。新たな段階に入ったということでしょう。それは必ずや、アジアにも跳ね返ってきます。世界は、第3次世界大戦・核戦争の危機を孕んだ、カオスのなかにあります。

●  かつて中学時代の三年間を過ごした、岩手県・大船渡の山が、燃え続けています。地元出身・佐々木朗希のドジャース入り・結婚で3・11東北大震災・大津波以来の町興しになるはずだったのに、3.11では避難先となった高台・山間部から火が出て、津波の被災地だった海岸線の民家を巻き込み、私の住んでいた市街地にも近づいています。21世紀日本では、最大の林野火災なそうです。中学時代の友人にメールとSNSを送っていますが、もう10年も没交渉だったので、生死も不明、気がかりです。自分の方は、心臓病からの快復の見通しが立った年末から、少しづつですが、研究生活への復帰を始めました。そのとっかかりとして、蔵書・資料整理を4年ぶりで再開し、書庫に眠っていた自分の昔の雑誌論文等を、整理しました。可能なものはPDFにして残し、雑誌そのものは廃棄する作戦です。まだ内容的に整理するには至っていませんが、本サイト「研究室」のページに、数多くの論文の他、対談・座談会・エッセイ等を新規に収録することができました。特に1990−94年に、80年代『現代と思想』(青木書店)の名編集者であった故西山俊一さんが興した窓社の雑誌『季刊 窓』に、自分でも忘れていた多くの論文が掲載されていました。「総目次」と共に、「日本はポストフォード主義か」の国際論争や、「民主集中制」をめぐる藤井一行・橋本剛・平田清明さんとの密度の濃い座談会討論など、現在でも生々しい意味のある論稿が、見つかりました。4月の新学期には、これら新規収録論文を組み込んだ、カリキュラムの再編成に取り組みたいと考えています。東欧革命・ソ連崩壊から90年代の理論的展開=転回に関心ないしノスタルジアがある方は、乞うご期待

トランプ2.0下の「落日の日本」で、独裁・専政に抗する個性的でしなやかな組織とは?

2025.2.1●  新年の挨拶は映画「キノライカ」のススメで始めましたが、幸い反響は大きく、10人ほどの方から、近くの映画館に足を運んだ、小津映画のようで良かったと言った感想が寄せられました。自分と家族の住む地域・職場・生活圏の足元を見つめ直し、多様な他者の存在を認め合い、小さな対面のコミュニケーション・コミュニティを再生していこうというメッセージです。それは、後半で述べたように、1月にドナルド・トランプがアメリカ大統領に就任して予測の難しい世界的変動が起こりうること、それを受け止める日本という国は、いまや経済的にも政治的・外交的にも衰退期に入って、内向きの閉鎖的特異社会になる可能性が高いことを予期しての、ささやかな抵抗でした。
● 案の定、トランプ2.0政権の出発は、世界を揺るがしています。ウクライナの戦争を24時間で止めるという誇大な公約は100日まで延長されましたが、イスラエルのガザ・ジェノサイドは「人質解放合意」で一時的停戦に入っても収まらず、トランプはガザのパレスチナ人をエジプト・ヨルダンなど近隣国の難民にしてイスラエルのユダヤ人入植地にするという、ネタニヤフの作戦に乗っています。CNNニュースによれば、「民族浄化作戦」で、アウシュヴィッツ解放80周年に合わせて、ナチスの被害者であったユダヤ人が、今度は加害者になってパレスチナ人を抹殺する試みです。
● イスラエルのガザ攻撃・入植を支持してきたカナダ政府は、しかし、トランプのカナダを51番目の州にするという脅しと25%関税の取引に遭って、トルドー内閣は崩壊しました。もう一つの隣国メキシコにも、移民排斥・強制帰国と関税取引で、すでにGoogle Mapでメキシコ湾をアメリカ湾にするという、バーチャルですが一方的な領土拡張です。冷戦終焉で1994年に発足した北米自由貿易協定(NAFTA)は、第一次トランプ政権時に米墨加協定(USAMCA)に改変されていましたが、30年足らずで最終的崩壊です。「自国第一主義」のトランプは、地球温暖化のパリ協定からも、世界の医療をつないできたWHO(世界保険機関)からも脱退しましたから、自由貿易秩序の要である世界貿易機関(WTO)からも、21世紀から加わった中国の影響力増大を理由に、撤退するかもしれません。国連を中心としたグローバル国際秩序全体のゆらぎで、第一次世界大戦後のヴェルサイユ=ワシントン体制、国際連盟型協調主義から、世界恐慌・ブロック経済を経てファシズム化・第二次世界大戦の歩みに似てくることになります。しかも保護主義といいながら、ケインズ主義やニューディールとは真逆の新自由主義で裏付けられていますから、地球全体が弱肉強食、格差拡大の競争社会へ向かいます。
● 近くにペンタゴン(国防省)やラングレー(CIA本部)もあるワシントンDCのレーガンナショナル空港近くで、64人の乗った旅客機と国防軍ヘリコプターの衝突事故です。私もコロナ前は米国調査でたびたび使い、ポトマック川対岸のホテルを定宿にしていました。航空網はどんどん広がったのに、連邦航空局(FAA)によれば、全米で空港管制官が3000人も不足しているもとで、人的過失事故の疑いがあります。トランプはこの悲惨な事故さえも政治的に利用し、旧民主党政権の「多様性重視」が航空管制官の能力低下を招いたと強弁しています。横田基地と羽田の空域が重なる東京、政権空白中に大きな航空機事故が続く韓国にとっても、他人事ではありません。トランプ2.0には、電気自動車テスラ、旧ツイッター=X等を操るイーロン・マスク政府効率化省(DOGE)が組み込まれていて、連邦予算・人員の削減が融資・補助金凍結から始まっています。巨大ITプラットフォーマー企業GAFAM(Google, Apple, 旧Facebook Meta, Amazon, Microsoftビッグテック)を従わせて、AI技術開発・採用による労働力削減、情報世界のファクトチェックなき無秩序化・コンテンツ画一化も見通されています。
● そんななかで、戦後80年男子普通選挙法・治安維持法100年の日本は、米国製装備を輸入し米軍基地存続費用を負担する国防予算巨大化で、何とかアメリカの歓心をひこうとしていますが、トランプのNATO同盟国への対GDP国防費5%要求の前では、まだ世界平均の2%にも満たない日本のインパクトはありません。日経新聞1月24日がいみじくも喝破したように、「トランプ大統領が見る日本 『標的』から「遠い友達」に」――つまり、かつての半導体・自動車競争でライバルだった「ジャパメリカ・バブル」は、WTO以前のGATT時代の昔話で、21世紀には中国がWTOに加わり台頭して、「落日の日本」との日米同盟は「52番目の州」とさえ見なされないネグリジブルな存在へと、フェイドアウトしつつあるのです。
● そんなこの国を、年頭に揺るがしているのは、少数与党になった自公政権のピント外れの石破首相「楽しい日本」

めぐる国会論議、トランプ政権の後ろ盾があると故安倍晋三崇拝の民族派が信じる「選択的夫婦別姓」や国連も巻き込んだ「女性・女系天皇」ではなく、一芸能人の女性への人権侵害から発し、民間テレビ企業の存続の危機を孕んだ、メディアの在り方です。昨年の東京都知事選、衆議院選挙、兵庫県知事選等でも既存の新聞・テレビメディアとSNS、週刊誌・独立メディアの関係が問われたのですが、それが、民間企業のコマーシャル経営や「企業風土」まで及んだかたちです。日本の財界で、こうした企業経営の危機のさいのバイブルになっていたのは、先日亡くなった故野中郁次郎教授らが戦争中の日本軍のノモンハン、ミッドウェイ、インパール敗戦などから引き出した「失敗の本質 日本軍の組織論的研究」だったはずですが、フジテレビはこれを学べず、40年以上もフジサンケイグループのトップとして日枝久取締役・相談役が君臨する「企業風土」を温存してきたようです。
● 同じように政財界とつながる独裁的メディア経営者であった読売新聞の渡辺恒雄主筆が没したさい、彼が戦後すぐの時期の日本共産党活動で学んだ権力支配の手法をメディア経営に持ち込んだ、といわれました。ナベツネより一回り若い日枝久も、メディア産業では最も弱体であったフジテレビ労働組合の書記長として60年代に「女性社員25歳定年制撤廃」の闘争手腕を発揮し、それが経営陣に見込まれて、出世コースに乗ったと言われます。もともとフジサンケイグループは、戦前日本共産党で「労働者派=解党派」の幹部だった水野茂夫の国策パルプ・産経新聞再建によって1950年代に興され、米軍占領下で読売争議・東宝争議など労働運動の力を潰して日経連専務理事になった鹿内信隆が引き継いだ、冷戦反共右派のメデイア拠点です。産経グループの論説でならした俵孝太郎もつい最近なくなり、ペーパーの「夕刊フジ」も廃刊ですが、彼も共産党体験をくぐった評論家でした。そういえば、昨夏亡くなった歴史学の伊藤隆も、水野成夫を『風の生涯』として重厚に描いた文人経営者・故堤清二=辻井喬も、1950年代の熾烈な労使対立・左翼運動体験を、企業経営や学術文化の世界で活かした日本的事例でした。
● 日枝が鹿内家を経営から追い出した1992年の「クーデタ」にも、文春は深く関与していたようです。水野茂夫―鹿内信隆―日枝久の歴史的流れは、天下り総務省官僚お台場土地開発・不動産資本吉本興業ジャニーズ事務所などとつるんだ日枝の「楽しくなければテレビでない」というフジテレビの「企業風土」と「失敗の本質」を見る際に、留意すべき重要な背景です。まさか石破首相の「楽しい日本」は、日枝の黄金期を真似たわけではないでしょうが、現実の「落日の日本」では、どちらも時代錯誤です。事前に少数の被害者による告発やメディア報道があったとはいえ、ジャニーズ事務所も今回のフジテレビも、結局は、海外メディア海外投資ファンドによる問題提起によって、社会化しました。日本のマスメディアには、「記者クラブ」体質に象徴的な、政権・官界・財界との距離の取り方があり、社会的弱者・女性・外国人労働者230万人、低賃金と物価値上げに苦しむ庶民の目線からの事実報道が、大きく欠けていたのです。日本軍の「失敗の本質」を作り上げた「内なる天皇制」「大本営依存」の歴史的遺産は、根深いものがあります。
● この問題での「キノライカ」風の小さな希望は、フジテレビ労働組合の活性化です。新聞労連・出版労連・民放労連・NHK労組など相対的に左派の強いマスコミ文化情報労組の中で、高給取りの多い1100人の会社フジテレビで、事件発覚以来急速に、労働組合加盟が進みました。技術者中心の80人から一挙に500人以上の組合ができて、ストライキを語るようになりました。「労組に入ると出世できない」から「日枝専制体制を刷新し、人権を守るには組合が必要」と、ジャーナリズムにめざめた生活感ある労働者が、激増したのです。折から朝日新聞出版から、藤崎麻里記者の『なぜ、いま労働組合なのか』が出版されました。20世紀に正統的だった階級的産別労組・戦闘的ユニオニズムとは違って、アメリカのサンダース支持者やGoogle労組、北欧の経験からも学び、職場のハラスメントと闘い、NPO・NGOとつながりフリーランスや外国人を包み込んだ、「労使協調型」から「参加型」の組合をみつめます。階級闘争・政治闘争というよりも、職場での多様な個人の共通利害・関心を基盤に「働く場所を整える」21世紀型の労働組合を紹介して新鮮です。マルクス主義の階級闘争論で労働組合を学んできた人には不満でしょうが、労働者の概念・イメージも労働組合も、21世紀型ヴァージンアップが求められているのです。
● 逆に労働者階級の解放を目指した「前衛」組織日本共産党の内部での人権侵害ハラスメント専従労働者の悲惨な労働実態が明るみに出て、同党の衰退に拍車をかけています。「自発的結社」ゆえに言論・表現の自由は制限され労働法は適用されないと抗弁してきた、陰謀秘密結社出自の権力奪取型社会主義政党が、就業規則提出や健康管理義務を国家にただされて、窮地においこまれています。党指導部は、高齢化に加え「革命政党」への執着から、もともとコミンテルン=ブハーリン起源の「4大矛盾・3大革命勢力」をアプリオリに設定して「ソ連社会主義の優位性」や「資本主義の全般的危機」「ソ連・中国の核は平和のため」の論理を導き天皇制と「対ソ干渉戦争」に反対した「32年テーゼ」の日本像を接ぎ木した同党1961年綱領のドグマ的発想にまで、先祖帰りしました。そこから抜け出せないが故に、そのまま若者から見放されてインターネット・SNS文化になじめず、組織は閉鎖的に硬直化して、長期の少数指導者支配を生んでいます。 ● 共産党の目玉だった機関紙「しんぶん赤旗」を、近所の市立図書館の閲覧室で見つけ、ウェブ上で読むところがないと話題になった1月29日付けを眺めてみました。なるほど、党員向けの委員長国会質問と副委員長の党勢拡大精神論で紙面が埋められ、ジャーナリズムとしての価値ある情報はありません。you tube で早送りすればいい内容です。いや強いていえば、テレビ・ラジオ欄の大きさが異様で、いわゆる第二社会面の下の方にずらりならんだ、おそらく無名の熱心な活動家であったであろう高齢者たちの訃報10数人分の並びが、同党の近い将来を暗示して、痛ましく不気味でした。なぜかトランプを再選させたアメリカ共和党や、日枝久のフジテレビ、出自を同じくする中国・北朝鮮の国家=党体制とも近似したところがあります。職場や地域の多様性や自律性、個人の主体性を認めることができず、地方議会議員などの除名除籍離党が相次ぎ、SNSばかりでなく、ローカルな現場のコミュニティからも告発され、訴訟もおこされるにいたっています。問われているのは、冷戦崩壊後の21世紀現実世界に正面から立ち向かい、トランプ型利己組織・指導者ファーストの専制に対抗しうる、個人と人権が尊重される、自由で多様でしなやかな社会組織・政治組織の在り方です 。

映画「キノ・ライカ」で新年のリフレッシュを!

2025.1.1● 12月14日に、東京でフィンランド映画キノ・ライカ 小さな町の映画館」が、渋谷のユーロスペースと青梅のシネマネコで封切られました。1月・2月に、全国で順次上映されます。お勧めです。「キノ・ライカ」とは、ヘルシンキから車で1時間の湖畔の町カルッキラに、映画監督アキ・カウリスマキと作家で詩人のミカ・ラッティが2021年10月8日に開いた映画館。ワインバーや川沿いのテラスを併設し、毎月コンサートを開催しているほか、展覧会なども行う街の複合文化施設となっています。アキ・カウリスマキは、2002年の『過去のない男』で第55回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞し、2017年の『希望のかなた』が第67回ベルリン国際映画祭で銀熊賞受賞、という巨匠です。人口9000人の森と湖の町に、多くの芸術家や文化人、映画好きの労働者が散在し、そこにジャンルや出自を超えて語り合う場をつくった物語です。● 11月の精密検査結果が順調で、主治医から小旅行の許可を得た私は、リハビリを兼ねて、「キノ・ライカ」を、奥多摩・青梅の木造の映画館「シネマネコ」で観てきました。青梅は、昭和ノスタルジックの映画ポスターなどでで町興し中で、「シネマネコ」はキノ・ライカ」にふさわしい、小さな映画館です。私が本格的に「スターリン主義批判」を始めた時期からの50年来の友人で「同志」である日系フィンランド人篠原敏武さんが、「雪の降る町を」など全編を流れる日本語の歌を唱い、地元に根付いた歌手として出演しています。私は、1985年以降、ヨーロッパ滞在・調査のたびにカルッキラの町を訪れ、滞在してきました。映画の舞台をなつかしく想い出すと共に、生活に根ざした芸術の美しさと逞しさが伝わる秀作に、感動しました。隣国韓国の政治が気にかかる人には「ソウルの春」でしょうが、新年の癒しとリフレッシュには、北欧のキノ・ライカ」です。皆さんに、強くお勧めします。

● 映画『キノ・ライカ』は、奥能登の大地震に始まり、気候変動がいやでも実感された2024年を締めくくる、ある種の清涼剤、いや、冬景色のなかのぬくもりでした。ウクライナとパレスチナで戦争と虐殺がやまず、世界中で選挙クーデタによる大きな政治変動が起こりました。移民・難民をめぐるヘイトスピーチやSNSを使ったポピュリズムが、旧来の政党政治や民主主義を揺るがし、相互の信頼と討論にもとづく対話と熟議の政治を脅かしました。「キノ・ライカ」は、そうした世界的流れに、いろいろな国や民族の出身者がフィンランドの岸辺に集い、職業・階級・階層、思想・信条・宗教の違いを越えて、生活に根ざしたまちづくりを地道に進めた、北欧型ローカル・コミュニティの実践を示しています。それは、もともとの政治の原点を、示唆しているようにも思えました。

 2025年は、第二次世界大戦の独日敗戦による戦後80年です。メディアの特集も多いでしょう。日本政治に即しては、国会の政治改革や韓国・災害の緊急事態がらみで、普通選挙法・治安維持法100年が問題になるでしょう。なにしろ今日の公職選挙法や国会運営の大本は、100年前の「国民」観と制度設計によっていますから。国際秩序も2024年選挙イアーの結果を受けて、大変動になるでしょう。プーチンや習近平の個人崇拝・独裁に、アメリカ大統領トランプが加わって、20世紀には受動的だった世界のローカル・ナショナル・リージョナルな動きと、対峙しています。逆に、20世紀の大国秩序を揺るがした日本など一部の成り上がり先進国は、新たな国際秩序を引き受ける側に、まわらざるをえないでしょう。トランプの就任直後には、世界の人々の健康と生命に直結するWHO(世界保健機構)脱退、再編がありそうです。すでにOECD統計で、一人あたりGDPは22位、韓国以下に落ち込みました。IMFの統計では、かつて1990年代に世界一の経験もある日本は、32,859ドルで39位、トップのルクセンブルグの3分の1以下で、北欧スウェーデン・フィンランドの6割以下、アジアではシンガポール、香港、台湾、韓国に追い抜かれ、スロバキア、サウジアラビア・クウェートなみです。日本の自公支配の不安定、物価高、財政破綻、為替市場、健康保険証廃止とマイナカード強制等の効果も、世界の大きな変動の従属変数になります。来年も国民生活にとっては厳しい、激動の年になるでしょう。郵便の年賀は失礼します。皆さん、それぞれの足場をしっかりとかためて、自分の家族と生活を守りましょう。 本年もよろしくお願い申し上げます。