加藤哲郎のネチズンカレッジ   netizencollege

研究室 新総合カリキュラム(■情報学研究 ■政治学研究 ■現代史研究) 図書館 イマジン カレッジ日誌(過去ログ)  国際歴史探偵の書斎から神田神保町タウン誌本の街』誌提携)

1 竹久夢二の2枚の「ベルリンの公園」

2 松本清張『球形の荒野』のモデルは崎村茂樹か?

3 福本和夫とゾルゲのドイツでの一期一会

4 宮本百合子「こわれた鏡」と「日本のソルジェニツィン」勝野金政

5 九段坂野々宮アパートの1937年末ーー岡田嘉子とアイノ・クーシネン

6. パスタの『壁の穴』から覗くCIAから日本文学まで

7 占領期時局雑誌の興亡ーー『真相』対『政界ジープ』

戦争は一人、せいぜい少数の人間がボタン一つ押すことで一瞬にし て起せる。平和は無数の人間の辛抱強い努力なしには建設できない。このことにこそ、平和の道徳的優越性がある」(丸山眞男 )、■加藤「『国際歴史探偵』の20年」、 ■「日本のコロナ対応にみる731部隊・100部隊の影」, ■「戦前の防疫政策・優生思想と現代」 、■「 コミンテルンの伝統と遺産」、 ■30年前の「日本共産党への手紙」、 ■岸惠子主演『真珠湾前夜』が可能にした学術的ゾルゲ事件研究」、 ■「ゾルゲ事件についての最新の研究状況」(映像編)論文編)

情報の海におぼれず、情報の森から離れず、批判的知性のネットワ ークを!

2026年6月 月例時評 

昭和百年記念式典で「戦後」は「戦前」になった?

 

● 春のはずなのに、暑い5月でした。ヨーロッパも同様のようです。気候変動で、農業も漁業も適応に大変です。気候変動を認めない米国トランプ大統領のパリ協定離脱で、グローバルサウスをはじめ食糧危機・飢餓が深刻です。ガソリン代やナフサ製品不足、円安輸入価格高騰に苦しみ、エネルギーも食糧も自給できない日本列島は、ノースからサウスに近づきつつあります。

● 2026年4月29日の日本政府主催「昭和百年記念式典」は、奇妙な国家行事でした。元号で百年をくくるのなら、かつて佐藤内閣下の政府主催イベントとして挙行された、1968年10月23日の明治百年記念式と比較できます。場所も同じ日本武道館ですが、明治百年には首相が先導して天皇・皇后以下皇族、全閣僚が参列しました。三権の長の挨拶はありましたが、メインは昭和天皇の「お言葉」でした。高度経済成長と東京オリンピック等を背景に、「わが国が近代国家として目覚ましい発展を遂げ、本日の記念式典を迎えたことは、誠に喜びに堪えません」と述べました。

●1968年の明治百年記念式典は、青少年が多数出席しており、近衛秀麿指揮のNHK交響楽団ワーグナーニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲を演奏、青少年代表が「若人の誓い」を述べました。明治100年頌歌「のぞみあらたに」の合唱、日本体育大学男女学生約130人による体育演技「若人の躍動」が行なわれ、NHK交響楽団がヘンデル王宮の花火の音楽」を演奏し、佐藤総理大臣が音頭を取り万歳を三唱して、高度経済成長による近代化を祝いました。近代化と言っても、工業化・都市化は進みましたが、民主化と市民社会の成熟はまだまだでしたから、当時歴史学研究会歴史科学協議会などが反対声明を出し、学園闘争さなかの多くの学生が百年の歩みを議論しました。私も、東京・渋谷でデモをした記憶があります。

● 映像で確認できる昭和百年記念式典は、明治百年とは大きく異なっていました。天皇・皇后は官房長官に導かれて、主催者である政府代表高市早苗首相に迎えられ出席はしましたが、政府の申し出により「お言葉」の機会はありませんでした。高市首相の式辞は、「今こそ、激動の昭和を生き、先の大戦や幾多の災害を乗り越え、希望を紡ぎ出した先人たちに学び、私たちも果敢に挑戦していく必要がある」「日本列島を、強く豊かに」という、総選挙時にもよく聞いた決意表明でした。立法府・司法部の長も式辞を述べましたが、何よりのハイライトは「上をむいて歩こう」から「川の流れのように」へと、海上自衛隊音楽隊と自衛官歌手による歌謡ショーでした。重厚なクラッシックは無く軽快で、戦争も敗戦・占領期もなかったかのような1955年以降の「明るい昭和」の演出でした。

● 「戦友」や「異国の丘」はもとより、「りんごの唄」や「東京ブギウギ」の選曲では、高齢者の多い出席者に「暗い昭和」を想起させると配慮したのでしょう。極め付きは、紅白歌合戦のなじみ曲に加えたTM NETWORK『Get Wild』のドラム付き演奏で、誰がみても高市早苗首相への忖度でした。事実、とまどい気味の天皇夫妻の傍で、高市首相は手拍子でリズムを取り御満悦でした。明治百年では全閣僚が出席しましたが、昭和百年では進行係になった官房長官も、映像ではこの曲に無表情にみえます。

● 大きな反対運動もなく、大手マスコミは小さくしか報じませんでしたが、SNS上では直後から論争が起こり、多くは「不敬」で「サナエのためのショウワ百年」と評されました。宮内庁は翌30日になって、政府主催の「昭和百年記念式典に出席された天皇、皇后両陛下」が、「過去の歴史から謙虚に学び、深い反省とともに平和を守るために必要なことを考え、将来へとつなげる努力を続けることが大切との思いで式典に臨まれた」という談話をだしました。天皇の「平和を永続的に守っていく」決意を高市首相が嫌ったので「お言葉」が避けられたのだろうと裏読みできる、ささやかな抵抗でした。

● ついには出席者への案内状が「謹啓」で始まりながら「謹白」では無く「敬具」でむすばれた不作法や、「戦争犠牲者」が「偽装者」と聞こえたことまでやり玉に上がり、総じて「高市首相は不敬」だ、「天皇を左翼と思ってよびすてにした」といった非難が、右派から巻き起こりました。

● こうしたもとで、国会では皇室典範の改正が始まり、女性・女系天皇は認めず、女性皇族は一般人と結婚しても皇族となるが配偶者や子どもは認めない案、皇族を確保するため1947年に皇籍離脱した旧宮家の男系男子を養子に迎える案が決められようとしています。象徴天皇制の象徴性が、大きく揺らいでいます。国民はインフレ・物価高で悲鳴をあげているのに、何とも時代錯誤な光景です。そんな内閣で、内調を格上げして国民監視を可能にする国家情報局が作られ、スパイ防止法が制定されようとしています。これは、「戦後」というより「戦前」ではないでしょうか。

●  そんな日本を「新型軍国主義」とよぶ中国・習近平政府は、アメリカのトランプ大統領と、5月14日に久しぶりの米中首脳会談でした。イラン戦争のために1か月延長したのに、トランプはホルムズ海峡開放もイラン核合意も達成できず、圧倒的に中国ペースでした。「建設的戦略安定関係」などと言い出し、米中G2の時代を印象づけました。

● 会談で習近平が述べた「トゥキディデスの罠」は、かの「決定の本質」のアリソン教授の述べた「新興勢力が既存勢力に挑戦する際には、紛争が避けられない」という原義に照らせば、米国の覇権に中国が追いつき緊張が高まった話に聞こえます。それ自体は正しいでしょう。同時に、習近平がトランプに「米国建国250年」の祝辞を述べつつ、翻って自国の4000年の歴史を誇るのを聞くと、もっと長いスパンで「パクス・アメリカーナの終焉」を示唆しるようにも見えました。80歳のトランプが、いかに健康診断結果を公開しもがいても、21世紀後半には、米中G2とは違った世界が見えてきます。

● 国連の2024年世界人口予測では、世界でほぼ100億人になる2050年には、インドが中国を抜き1位になっています。アメリカはナイジェリアにも追い越され第4位です。2008年から人口減に転じて22年には10位以下になった日本は17位とか。世界人口は2084年頃の103億人をピークに停滞し、2100年には102億人ほどです。日本は7500万人まで減って第36位、インド、中国、ナイジェリア、移民国アメリカの順位は変わらないものの、第5位パキスタン、第6位コンゴ他アフリカ諸国が大幅に増えます。グローバルサウスの時代です。

● 長期経済統計予測は、人口推計に比すると信頼性が落ちますが、ゴールドマン・サックスの2025年レポートでは、2050年にはGDPで中国がアメリカを抜き、以下、インド、インドネシア、ドイツ、日本、イギリス、ブラジル、フランス、ロシアとなるといいます。スペックニュースの2100年予測では、インド、米国、中国、インドネシア、ナイジェリア、パキスタン、エジプト、ブラジルで、日本はトップテン圏外です。いずれの予測でも、中国とインドが、21世紀を決定づける超大国です。イスラエルのためにトランプが唐突にいいだした宗教的アブラハム合意拡大よりもはるかに信憑性があり、AIも認めるリアルな見通しです。

● もっとも斎藤幸平『人新世の「黙示録」』や藤原辰史の『食権力の現代史』を参照すれば、気候変動や戦争・飢餓、それにAI技術により、人口予測も経済予測も一筋縄ではいかないことがわかるでしょう。そもそも国民国家単位での「国益」やGDPがどれだけ有効かが、再び問われるでしょう。

● 20世紀末の冷戦崩壊グローバリゼーション時に、フランシス・フクヤマ「歴史の終わり」に連動した「国民国家のたそがれ」論が一時的に現れました。しかし、サミュエル・ハンティントンの「文明の衝突」の方がリアルで、湾岸戦争から9・11に始まる21世紀に突入し、今日の「ハイパー帝国主義」「新型帝国主義論」につながりました。一方での気候変動や食糧危機、他方での生産技術としてのAIロボットの登場や無人機ドローン・無人潜水艦の戦争は、考察をもう一段深めることを要請しています。それは、トランプや私たちの世代にはできない仕事です。若い創造的知性の誕生を、期待します。

● 神田神保町タウン誌『本の街』連載「国際歴史探偵の書斎から」の6月号は、第8回「トロツキーと佐野碩のメキシコ」で、5月10日頃公刊されましたので、本サイトにも公開します。7月号は第9回「占領軍に検閲されたトヨタの社内報」で、6月10日頃公開予定です。尾﨑=ゾルゲ研究会は、6月20日に拓殖大学茗荷谷(文京)キャンパス E501教室+ZOOMで、第11回研究会を予定しています。詳しくはOS研ホームページでオンラインを含む参加が登録できますが、人類学が戦時インテリジェンスに深く関わったことを念頭に置いて、中生勝美・飯田卓編『ファシズム期の人類学』(風響社、2025年)の合評会となります。

第11回OS研研究会 2026年6月20日(土) 時間:15:00~18:00 

ネチズンカレッジ2025年10月新規開講コース案内

2025年9月の新規開講に当たって、30年近い「ネチズンカレッジ」の伝統と実績を引き継ぎながら、SNS時代にマッチした新たなコースを構成していきます。

ブログ;今月の世界と日本

情報学中心のカリキュラム再編成

最近の研究から:731部隊・100部隊とゾルゲ事件

図書館:書評と資料紹介、読者の寄稿

イマジン:9・11と3・11の情報戦の記録

Global Netizen College (in English)

「ネチズンカレッジ」の30年(過去ログ)

 Since Aug.15,1997で、2020年1月、2025年9月に大幅改訂しました。開設以来の、ちょっと嬉しく恥ずかしい話。WWW上の学術サイトを紹介するメール マガジン“Academic Resource Guide”第3号「Guide & Review」で、本HPが学術研究に有用な「定番」サイトに選ばれました。ありがたく また光栄なことで、今後も「定番」の名に恥じないよう、充実・更新に励みます。同 サイトは、学術研究HPの総合ガイドになっていますから、ぜひ一度お試しを! 「Yahoo Japan」では「社会科学/政 治学」で注目クールサイトに登録され、特別室「テル コ・ビリチ探索記」が「今日のオススメ」に、「IMAGINE! イマジン」が「今週のオススメ」に入りました。「LYCOS JAPAN」では「政治 学・政治思想」のベストサイトにされていましたが、いつのまにか検索サイトごと「Infoseek」に買収され、「学び・政治思想 」でオススメ・マークを頂いたようです。『エコノミスト』では、 なぜか「イ ンターネットで政治学」の「プロ」にされましたが、河合塾の「研究者インフォー メーション 政治学」では「もっとも充実した政治学関係HP」、早稲田塾の「Good Professor」では、「グローバ ル・シチズンのための情報政治学を発信」という評価をいただきました。「日経新聞・I Tニュース」では「学術 サイトとしては異常な?人気サイトのひとつ」として、「リクルート進学ネッ ト」にも顔を出し、「インターネットで時空を超える大学教員」なんて紹介されました。

 朝日新聞社アエラ・ムック『マスコミに 入る』で、元勤務先一橋大学の私のゼミナールが、なぜか「マスコミに強い大学 」のゼミ単位東日本代表に選ばれ「堅実・純粋な感 性」を養う「社会への関心が高い『問題意識』の強い学生が集う」ゼミナール として紹介されました。「 ナレッジステーション 」には、「政治学 ・おすすめ本」を寄せています。早稲田大学客員教授の時に、共同通信配信全国地方紙掲載「こんにち話」で「国際歴史探偵 」と認定していただき、法政大学大原社会問題研究所で「『国際歴史探偵』の20年」を話させていただきました。

 その後、中部大学「アリーナ」誌で、なぜスターリン批判に入ったかの1970年代の話とモスクワ日本人粛清に関わるアメリカ共産党日本人部の話を、その延長上で「等身大のゾルゲ事件研究」について、毎日新聞東京新聞のインタビューに答えています。恥ずかしながら、ありがとうございました。

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学長 加 藤 哲 郎  Dr. Kato Tetsuro     

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