加藤哲郎のネチズンカレッジ   netizencollege

研究室 新総合カリキュラム(■情報学研究 ■政治学研究 ■現代史研究) 図書館 イマジン カレッジ日誌(過去ログ)  国際歴史探偵の書斎から神田神保町タウン誌本の街』誌提携)

1 竹久夢二の2枚の「ベルリンの公園」

2 松本清張『球形の荒野』のモデルは崎村茂樹か?

3 福本和夫とゾルゲのドイツでの一期一会

4 宮本百合子「こわれた鏡」と「日本のソルジェニツィン」勝野金政

5 九段坂野々宮アパートの1937年末ーー岡田嘉子とアイノ・クーシネン

6. パスタの『壁の穴』から覗くCIAから日本文学まで

7 占領期時局雑誌の興亡ーー『真相』対『政界ジープ』

戦争は一人、せいぜい少数の人間がボタン一つ押すことで一瞬にし て起せる。平和は無数の人間の辛抱強い努力なしには建設できない。このことにこそ、平和の道徳的優越性がある」(丸山眞男 )、■加藤「『国際歴史探偵』の20年」、 ■「日本のコロナ対応にみる731部隊・100部隊の影」, ■「戦前の防疫政策・優生思想と現代」 、■「 コミンテルンの伝統と遺産」、 ■30年前の「日本共産党への手紙」、 ■岸惠子主演『真珠湾前夜』が可能にした学術的ゾルゲ事件研究」、 ■「ゾルゲ事件についての最新の研究状況」(映像編)論文編)

情報の海におぼれず、情報の森から離れず、批判的知性のネットワ ークを!

2026年5月 月例時評 

戦争は国家と社会を病に導く

トランプ大統領に合衆国憲法修正25条を、高市首相に日本国憲法99条を!

● アメリカのトランプ大統領も、日本の高市早苗首相も、野党の弱さによって続いていますが、賞味期限がきたようです。イランの核とホルムズ海峡閉鎖をめぐる米国・イスラエルとイランの戦争は、背後で中国・ロシアも動いたらしいパキスタンの仲介で、一時的に停戦協議に応じるかに見えました。しかし「イラン崩壊」「勝利」「終決」を声高に叫ぶトランプは、無定見に再三交渉条件を変更し、停戦延長を余儀なくされ、イランとの間にオバマ大統領時代なみの核協定も結べず、停戦そのものが反故にされしようとしています。

● イスラエルとレバノンの停戦も不安定で、ホルムズ海峡はイランの機雷封鎖米国の逆封鎖で膠着し、UAEのOPEC離脱まで飛び出して、戦争の長期化・泥沼化もありうる第3次石油危機です。差し迫った米中会談も11月中間選挙用虚勢も世論の支持に結びつかず、ガソリン価格はガロン4ドルを越えて、カトリック総本山のローマ教皇まで敵に回したトランプ大統領の支持率は、今や任期最低の34%です。

● 前回トランプの年齢相応の肉体的衰弱と知的衰退・支離滅裂、端的にいって認知症の症状が世界を揺るがしていると述べました。しかし、トランプの任期はまだ1000日あり、政権の厚生長官は現代医学を信じず陰謀論に組みするロバート・ケネディ・ジュニアです。秋の中間選挙で共和党が敗れても、トランプ自身は、支離滅裂な「アメリカ・ファースト」を変えないでしょう。トランプ・ファミリーの戦争ビジネスも語られ、ワシントンでの政府高官テロ未遂事件勃発など、問題の根深さを示しています。ホワイトハウスが、イギリス国王と並ぶ大統領を「2人のキング」と報じる無節操、末期症状です。この人が、核兵器のボタンを握っています。

● 米国内でも何とかしなければという声が、民主党ばかりでなく共和党支持者・MAGA派の中でも広がり、合衆国憲法修正第25条第3節 大統領が、その職務上の権限と義務の遂行が不可能であるという文書による申し立てを、上院の臨時議長および下院議長に送付する時は、大統領がそれと反対の申し立てを文書により、それらの者に送付するまで、副大統領が大統領代行として大統領職の権限と義務を遂行する」「第4節 副大統領および行政各部の長官の過半数または連邦議会が法律で定める他の機関の長の過半数が、上院の臨時議長および下院議長に対し、大統領がその職務上の権限と義務を遂行することができないという文書による申し立てを送付する時には、副大統領は直ちに大統領代行として、大統領職の権限と義務を遂行するものとする」による、ホワイトハウスの刷新を夢見る人が増えています。

● ただしこれには、ヴァンス副大統領がトランプ大統領を見放し、閣僚の過半数がそれに従うという、高いハードルがあります。イランに飽きた気まぐれトランプが、次はキューバ襲撃という見方もありますが、国際法を無視するトランプに、国際社会は何もできないのでしょうか。さしあたりはカナダが言い出した「ミドルパワー連合」でしょうか。3月末の全米3000ヵ所以上での「No Kings(王は要らない)」デモに数百万人が参加しましたが、容易に動きません。「MAGA(アメリカを再び偉大に)」と呼ばれるトランプの岩盤支持層からも「イラン攻撃はアメリカ・ファーストに反する」と憤る声が上がっています。案外、スロベニア出身のファーストレディでカトリック教徒メラニア夫人が、重要な役割を果たすかもしれません。

● 一時はトランプに近い立場と見なされたがローマ教皇の側に立ったイタリアのジョルジャ・メローニ首相や、地政学的には最もアメリカの影響を受けやすいメキシコのユダヤ系でありながらカトリック教徒のシェインバウム大統領は、共に優れた女性リーダーですが、トランプには明確に距離をおいています。日本の高市早苗首相は、トランプ大統領との個人的親密さがウリで、日米同盟というよりもトランプ依存症ともいうべき従属ぶりです。相手は外交儀礼で首相と呼んでいるのに、ファーストネームで呼べば緊密さの証拠と思い上がり、ホルムズ海峡防衛に責任を持てと悪口を言われても反論できません。中国との関係回復の焦点は、台湾有事と共に、日本の核保有です。

●  何よりも高市内閣成立半年で、自分自身が外交にも内政にも定見をもたないことが、明らかになってきました。旧安倍政権のめざした憲法改正・「普通の国づくり」以上には、対中国政策も、石油危機対策も、円安160円/$・長期金利2.5%対策も、具体的に打ち出すことができません。総選挙勝利の公約の目玉だった消費税減税の行方も、怪しくなっています。トランプ政権の病で国際環境そのものが大きく変わっているのに、内閣情報局設置やスパイ防止法、国旗損壊罪のような国民監視強化策しか実現できず、石油危機で切実な物価高・物不足への手を打てません。

● 信頼できるブレーンをもたず、休日は公邸籠もりで、世間の風を読めません。国会答弁や記者会見では首相の器でないボロが出るので、もっぱらSNSでつぶやくのも、トランプ譲りです。自民党幹部とも高級官僚ともうまくゆかず、ただ奇襲解散・総選挙で得たポピュリズムの支持率に依拠するだけです。その支持率も徐々に下がり始め地方選挙で自民党は連敗、与党中枢からも早期退任説が出てきて、「裸の王様」予備軍です。米国大統領と違って、日本の首相は、自民党総裁選でも差し替え可能です。

● 憲法改正への議論が強まっていますが、それは憲法第41条「国権の最高機関」である立法府の問題です。行政府、特に高市首相は、憲法第99条「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」の先頭に立つことを、求められます。憲法に従って、国民の第25条「健康で文化的な最低限の生活」のために、緊急の石油危機対策を忠実に果たしてくれるだけで十分なのですが、高市首相は、国会軽視・国民生活無視の連続で、武器輸出・防衛費拡大、安保3文書改訂など、日本国憲法から見て疑問の多い軍事偏重政策に前のめりです。

● 「経済活動は止めるべきでない」と、節約をよびかけることもしないそうです。ガソリン価格は予備費の補助金では間に合わず、ナフサ不足で医療現場ではビニール手袋・注射器・人工透析のチューブが不足、出版社からは紙・コーティング剤・印刷インクの不足と値上がりの、悲鳴が聞こえます。長期化すれば、来春の統一地方選挙の選挙ポスターや投票用紙調達も危うくなりそうです。戦争や物価高に反対するデモや市民運動も高まっています。トランプのローマ教皇問題と似て、高市支持者との関係では、皇位継承・皇族確保の皇室典範改正もアキレス腱になりえます。

● 世界はすでに第3次世界戦争に突入したのではと思案しながら、カティア・ホイヤー『壁の向こう側 東ドイツ 知られざる生活 1949−1990』(河出書房新社、2025年)を、じっくり読んでいます。自分自身が大学卒業時に留学生活を送った想い出多い国なのに、1990年にはそのDDR国家そのものが無くなった不思議な体験の、ノスタルジックな後追いです。その第一章「ヒトラーとスターリンとの板挟み」を読んで、類書と異なる斬新な問題設定に引きつけられました。

● 類書では「序章」「前史」として扱われる1918−45年が、ヒトラー台頭でドイツに亡命したドイツ共産党員たちと、独ソ戦戦争捕虜になった250万ドイツ兵たちのなかの「反ファシズム(アンティーファ)」運動活動家の帰国によって作られたのが「ドイツ民主共和国(DDR)」であり、ソ連国家及びソ連KGBと結んだ秘密警察シュタージが直接の母胎とされます。かつて語られた「人民民主主義」や「社会民主党と共産党の統一戦線」などは、イデオロギー的な「偽りの民主主義」でした。

● ナチスのユダヤ人等強制収容所は、1945年のドイツ敗戦時に、そのままKGBの管理するナチ協力者、ソ連占領に反対する住民の特別収容所(Spezlag)に作り替えられました。1945-50年まで、合計10ヵ所に15万7837人の囚人が収容され、ソ連の公式記録では756人が銃殺刑とのことですが、実際には囚人の35%=5万人以上が残虐・悲惨な環境で死亡したといいます。戦争は、直接の戦闘が終わっても、社会に大きな傷と病をもたらします。

● これは、先日亡くなった久米宏が、日本の報道を変えたテレビ朝日「ニュースステーション」の1995年6月「戦後50年特集」第一回で大きく取りあげた史実を裏付けるものです。すなわち、ドイツ敗戦時に日本に帰国せず、ソ連軍の捕虜となってザクセンハウゼン収容所に5年間収容された日本人医師・可児和夫の『文藝春秋』1951年2月号の証言を、裏付けるものです。囚人たちから「微笑む仏陀」と慕われた可児和夫の生涯は、可児の遺稿を受け継いだピアニスト・ブーニン夫人であるケルン在住ジャーナリスト中島ブーニン榮子さんによって、評伝が世に出ようとしています(『週刊文春 WOMAN』29号、2026年春号)。

● 同時に、ホイヤーの新著には、たまたま東のソ連占領地域に生まれ育った人々は、共産主義イデオロギーへの忠誠を装い、シュタージ相互監視されながらも、生きる知恵によって地域社会で作り上げた独特の生活世界・市民社会があったことも出てきます。例えばベルリンの壁崩壊時に西側から「トラビ」として珍重され軽蔑されたあの小さな車トラバントは、注文後入手まで10年以上かかったとはいえ、それなりにうまく作られた車で、1980年代にはイギリス並みに住民に歓迎され普及していました。1971年のウルブリヒトから青年同盟指導者ホーネッカーへの指導者交代は、若者たちのあこがれだった西側ジーンズの大量輸入と模倣国産化の「擬似自由化」を伴っていました。

● 私自身は、その時期に留学して、東西ドイツ国家の分裂固定化に立ち会いました。両国にあった『広辞苑』風定番辞書『DUDEN』では、例えば「Frieden (平和)」の定義が全く異なり、ドイツ語も東西に分かれたとされました。1973年ベルリンでの第10回世界青年学生平和友好祭に参加し、アメリカ人アンジェラ・デーヴィスのベトナム反戦演説を聴いたことはよく覚えていますが、友好祭の直後にウルブリヒトの葬儀があったことは記憶外でした。その頃の西ドイツ首相ブラントの個人秘書ギヨームが東のスパイであった事情も、詳しく書かれています。1月の月例時評で紹介した赤川省吾日独冷戦秘史』(慶應義塾大学出版会)を読み際に、東独側の事情を詳しく解き明かす内容になっています。庶民の生活と行動パターンが、幾多の実例・実名を挙げて活き活きと描かれているのも新鮮でした。

● このホイヤー『壁の向こう側』をいわば補足・拡充する現代的論点を提起するのが、京都大学人文科学研究所准教授・藤原辰史さんの公開セミナーの論稿「ドイツ現代史研究の取り返しのつかない過ち――パレスチナ問題軽視の背景」です。講演記録ですが、大変読み応えがあります。橋本伸也さんらの指摘する、ナチスのユダヤ人迫害があまりに厳しく象徴的であったが故にイスラエルのパレスチナでのジェノサイドを相対化し見逃しがちな歴史学の問題を、エルンスト・ノルテの問題提起に故ハーバーマスも加わった西ドイツの「歴史家論争」、それに現在のドイツと日本の歴史認識・歴史意識の問題(歴史家論争2.0)として俎上にあげた、すぐれた問題提起です。「収容所は常に人体実験の対象」という藤原さんの新著『食権力の現代史 ナチス「飢餓計画」とその水脈』(人文書院)の帯に「ナチスとイスラエルをつなぐもの」と記した意味が、よく伝わってきます。

● 神田神保町タウン誌『本の街』連載「国際歴史探偵の書斎から」は佳境に入り、5月号の第7回「戦後時局雑誌の興亡ーー占領軍の検閲と政局をめぐる『真相』対『政界ジープ』」が公刊されウェブ版にも収録されました。、6月号の「トロツキーと佐野碩のメキシコ」もまもなく発売されます。公刊次第、本サイトにも公開します。私が名越健郎さんとともに共同代表をつとめる尾﨑=ゾルゲ研究会が、6月20日に拓殖大学茗荷谷(文京)キャンパス E501教室+ZOOMで、第11回研究会を予定しています。詳しくはOS研ホームページで、オンラインを含む参加が登録できますが、中生勝美・飯田卓編『ファシズム期の人類学』(風響社、2025年)の合評会です。

第11回OS研研究会 2026年6月20日(土) 時間:15:00~18:00 

ネチズンカレッジ2025年10月新規開講コース案内

2025年9月の新規開講に当たって、30年近い「ネチズンカレッジ」の伝統と実績を引き継ぎながら、SNS時代にマッチした新たなコースを構成していきます。

ブログ;今月の世界と日本

情報学中心のカリキュラム再編成

最近の研究から:731部隊・100部隊とゾルゲ事件

図書館:書評と資料紹介、読者の寄稿

イマジン:9・11と3・11の情報戦の記録

Global Netizen College (in English)

「ネチズンカレッジ」の30年(過去ログ)

 Since Aug.15,1997で、2020年1月、2025年9月に大幅改訂しました。開設以来の、ちょっと嬉しく恥ずかしい話。WWW上の学術サイトを紹介するメール マガジン“Academic Resource Guide”第3号「Guide & Review」で、本HPが学術研究に有用な「定番」サイトに選ばれました。ありがたく また光栄なことで、今後も「定番」の名に恥じないよう、充実・更新に励みます。同 サイトは、学術研究HPの総合ガイドになっていますから、ぜひ一度お試しを! 「Yahoo Japan」では「社会科学/政 治学」で注目クールサイトに登録され、特別室「テル コ・ビリチ探索記」が「今日のオススメ」に、「IMAGINE! イマジン」が「今週のオススメ」に入りました。「LYCOS JAPAN」では「政治 学・政治思想」のベストサイトにされていましたが、いつのまにか検索サイトごと「Infoseek」に買収され、「学び・政治思想 」でオススメ・マークを頂いたようです。『エコノミスト』では、 なぜか「イ ンターネットで政治学」の「プロ」にされましたが、河合塾の「研究者インフォー メーション 政治学」では「もっとも充実した政治学関係HP」、早稲田塾の「Good Professor」では、「グローバ ル・シチズンのための情報政治学を発信」という評価をいただきました。「日経新聞・I Tニュース」では「学術 サイトとしては異常な?人気サイトのひとつ」として、「リクルート進学ネッ ト」にも顔を出し、「インターネットで時空を超える大学教員」なんて紹介されました。

 朝日新聞社アエラ・ムック『マスコミに 入る』で、元勤務先一橋大学の私のゼミナールが、なぜか「マスコミに強い大学 」のゼミ単位東日本代表に選ばれ「堅実・純粋な感 性」を養う「社会への関心が高い『問題意識』の強い学生が集う」ゼミナール として紹介されました。「 ナレッジステーション 」には、「政治学 ・おすすめ本」を寄せています。早稲田大学客員教授の時に、共同通信配信全国地方紙掲載「こんにち話」で「国際歴史探偵 」と認定していただき、法政大学大原社会問題研究所で「『国際歴史探偵』の20年」を話させていただきました。

 その後、中部大学「アリーナ」誌で、なぜスターリン批判に入ったかの1970年代の話とモスクワ日本人粛清に関わるアメリカ共産党日本人部の話を、その延長上で「等身大のゾルゲ事件研究」について、毎日新聞東京新聞のインタビューに答えています。恥ずかしながら、ありがとうございました。

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学長 加 藤 哲 郎  Dr. Kato Tetsuro     

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