

第一講 竹久夢二の2枚の「ベルリンの公園」



● 竹久夢二と言えば、大正ロマンの美人画や「宵待草」でしられています。しかし彼の絵画の出発点は初期社会主義の「直言」「平民新聞」の挿絵画家で、荒畑寒村と同居するなど社会運動との接点をもっていました。関東大震災で水彩の美人画や絵はがきが売れなくなったとき、震災被災地のリアルなスケッチを残し、榛名湖畔に産業美術研究所を企画した事も知られています。
その彼が1931年アメリカに旅たち、32ー33年はドイツに滞在して本格的に美術を学ぼうとしました。アメリカでは油絵も再開し、ドイツでは社会民主党系バウハウスのヨハネス・イッテンの画学校で東洋画をユダヤ人美学生らに教えていました。ちょうど左右の対立の中からヒトラーのナチス政権が成立した時で、彼はその目撃者となるとともに、ユダヤ人学生をひそかに助けたとも言います。
● 日本帰国後まもなく、台湾で客死するため、晩年の夢二の研究と評価は遅れていましたが、私はアメリカ史の袖井林二郎教授と共にドイツ時代の夢二を追い、イッテン・シューレ時代の貴重なスケッチ類なども見つけることができました。その中で出てきたのが、上の写真の右と左に掲げた共に「ベルリンの公園」と題する2枚の夢二の絵の謎です。
● 詳しくは、以下のいくつかのエッセイなどで論じてきましたが、近年出された歴史家ひろたまさきさんの遺作『異郷の夢二』(講談社、2023年)によっても、問題は解決していません。
● 長年占領史研究・原爆研究の片手間で一緒に夢二を追って、アメリカ時代の夢二の貴重な作品を発見してきた袖井林二郎さん(1933−2025)も、ひろた・まさきさん(1934−2020)に続いて亡くなりました。実は、ひろたさんとはボストンで、袖井さんとはワシントンDCやメキシコ・沖縄で、幾度か意見交換したことがあり、私のベルリン在住日本人の反ナチ運動に夢二も関わっていたという仮説はありうると激励されましたが、実証できないままになっています。若い歴史家・美術史家の再挑戦を期待します。
- 「島崎蓊助と竹久夢二──ナチス体験の交錯』(桐生『大川美術館・友の会ニュース』第49号、2002年8月)
- 「ドイツ・スイスでの竹 久夢二探訪記」(『平出修研究』第32集、2000年6月)



● 以下のサイトもご参照ください。




4 文化学研究科
(文化)
・カルチャーとしての社会主義(『20世紀を超えて』序論、花伝社、2001年)
・ワイマール末期在ベルリンの日本人文化人・知識人」(Ogai-Vorlesung、ドイツ語レジメ・資料、1998)
・「幻の紀元2600年万国博覧会ーー東京オリンピック、国際ペン大会と共に消えた『東西文化の融合』」(加藤哲郎監修・解説『近代日本博覧会資料集成 紀元2600年記念日本万国博覧会』、国書刊行会、2016、別冊)
・「SFとしての『原子力平和利用』」(そのyou tube版、2012年5月25日明治大学講演記録)
- 「『世界のトヨタ』揺籃期の企業文化」(『占領期雑誌資料体系 文学編』第3巻、岩波書店、「月報」2010年3月号)
- 「戦後時局雑誌の興亡——『政界ジープ』vs.『真相』」(関連資料、2017年7月)
(美術)
・「宮城與徳訪日の周辺ーー米国共産党日本人部の2つの顔」(日露歴史研究センター編・第6回ゾルゲ事件国際シンポジウム報告集『ゾルゲ事件と 宮城與徳を巡る人々』2011年10月)(伊藤律の冤罪)
- 「島崎蓊助のセピア色と『絵日記の伝説』(桐生大川美術館『ガス燈』第53号、2002年7月10日号)
- 「島崎蓊助と竹久夢二──ナチス体験の交錯』(桐生『大川美術館・友の会ニュース』第49号、2002年8月)
- 「島崎藤村と日本ペンクラブ』(日本ペンクラブ『P.E.N.』第423号、2014年2月)
- 「島崎藤村・蓊助資料の寄贈に寄せて」(『日本近代文学館報』第265号、2015年5月)
- 「ドイツ・スイスでの竹 久夢二探訪記」(『平出修研究』第32集、2000年6月)
(文学)
・「ハーン・マニアの情報将校ボナー・フェラーズ」(平川祐弘・牧野陽子編『ハーンの人と周辺』新曜社、2009年8月)
・「芹沢光治良と友人たち──親友菊池勇夫と『洋行』の周辺」(『国文学 解釈と鑑賞、特集 芹沢光治良』第68巻3号、2003年3月)
・「SFとしての『原子力平和利用』」(そのyou tube版、2012年5月25日明治大学講演記録)
・『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊・二木秀雄と「政界ジープ」』(花伝社、2017年5月)
(音楽)
「大正生れの歌」探索記(2018年版)
(映画)
・「岸惠子主演『真珠湾前夜』が可能にした学術的ゾルゲ事件研究」(みすず書房HP「トピックス」2023年5月)
(演劇)
・国境を越える夢と逆夢(インタビュー、1994、岡田嘉子と杉本良吉の越境)
- 「コミンテルンと佐野碩」(菅孝行編『佐野碩 人と仕事(1905−1966)』藤原書店、2015年12月)
- 亡命者佐野碩ーー震災後の東京からベルリン、モスクワへ」(The Art Times, No.3, October 2011)
- 菅孝行・加藤哲郎・太田昌国・由井格「鼎談 佐野碩ーー一左翼演劇人の軌跡と遺訓(上)(下)」(『情況』2010年8・9月、10月)
・「疑心暗鬼の国が生んだ人間のドラマ」(静岡県舞台芸術センター『劇場文化』9号 、2009年6月)


今後の予定(不定期、順不同)

●島崎藤村と日本ペン倶楽部
●勝本清一郎と島崎蓊助
●村山知義と千田是也
●坂倉準三と山口文像
●アグネス・スメドレーと石垣綾子
●岡田嘉子と杉本良吉
●佐野碩とフリーダ・カーロ
●宮城与徳と安田徳太郎
●木下順二と中野好夫
●石川啄木と宮澤賢治
●尾﨑秀実と太宰治
●リヒアルト・ゾルゲとアイノ・クーシネン、ほか